フルコンタクトKARATEマガジン vol.48 2020年3月号

INTERVIEW 全体性をつくりRF大会で3階級制覇
40歳で自分史上最強の強さ・齋藤 天

去る2019年12月1日、投げ・関節ありのRF全日本大会で3階級制覇(マスター部門)を達成した齋藤天(禅道会総本部)。運動神経もそこそこで、他のスポーツもしていなかった」という齋藤が武道を始めたのは30歳。「MMA(総合格闘技)空手で3階級王者になるために32歳からしてきたこと」を語ってもらった。撮影協力/中島康喜

戦えない体づくりに励んできた

――30歳で空手を初めた頃はどのような練習をしていたのですか?

基本稽古や呼吸法、ストレッチよりスパーリングやミット打ちなどを重視し、ウエイトトレーニングも稽古前に1時間みっちり行っていました。

今振り返れば、稽古中や日常生活の他にストレッチ中にも怪我も多く、継続的な稽古ができなかったので、身体も大して鍛えられていなかったような気がします。
当然、試合に出れば怪我が多く、パンチで突き指や裂傷、手首を捻挫、蹴られた足や自ら蹴った際の捻挫で、1ヶ月はまともに歩けない事もありました。
しかも、稽古中や試合中にすぐに呼吸困難になりバテてしまっていました。

そんな私が取り組んだことは「スタミナやフィジカルがないから弱いんだ」と、ランニングやウエイトトレーニングを増やし、体重増加のために、食事量を増やし、ウェイトアッププロテインを飲みまくったことでした。
その結果、3ヶ月後には体重が10kg増えましたが、検診で引っかかり、「尿酸値が高く、このままでは痛風や糖尿の危険がある」と医師に言われ愕然としました。

――検診がきっかけとなり、今までの食生活や稽古法などを真剣に見つめ直そうと考えたわけですね。

転機は禅道会の小沢隆先生(写真A参照)が中心となって運営しているデイヤーナ国際学園に勤務することになったことです。

小沢先生の運転手として、多忙な出張日程に同行するかたわら、日課の朝稽古にご一緒させて頂くことになりました。最初はただ自分の練習(前出の内容)をしていたのですが、ある出張先で、小沢先生の技術講習会が開催されることがあり、その際に受け手として、小沢先生の下段蹴りを受けました。軽くゆっくりと蹴ったはずなのに、蹴られた瞬間に全身に電気が走り、一瞬でその場に倒れてしまいました。しかも、翌日まで足は痛く、確認すると何故か癒が左足の内側に…。

なぜ衝撃の質が違うのか?疑問がわき、小沢先生に訊いたのですが、意味不明な部分が多く、それから、小沢先生の技術講習会のたびに、帰り道の運転中に小沢先生を質問攻めにしました。そこで得た知識と、小沢先生の朝稽古を完全に真似して、体の使い方、動きを変えていきました。

――小沢先生から学んだことを教えて下さい。

一つ目は、全体性です。
全体性とは正しい姿勢から生まれる力のことです。
力まなくても大きな力を発揮できることが特徴で、次のような効果があります。

  • 全体が動くため質量が大きい(パワーが増す)
  • 全身の力みが抜ける(指先など末端)
  • 全身の連動性が高まる(相対的な速度が増す)
  • 察知されにくい(相手の反射を起こさせない)

今回の大会でも私に全体性があり、対戦相手に全体性がなければ、押し負けませんでした(写真B参照)。一切していないのに「相手からはどれだけウエイトやっているんですか?」と勘違いされました(笑)

また、投げを仕掛けられでも相手が勝手に崩れていきました(写真C1~4参照)。そのため試合ではいかに相手の全体性を崩すかを考えていました。

――どのようにして、全体性を高めるのでしょうか?

正しい立ち振る舞いが全体性を高めます。
実際に正座で体験してみてください。
背中が丸まっている状態では、全体性が低くなります(写真D1参照)。この状態で力が発揮できるでしょうか?

逆に骨盤を立て、背筋を伸ばしてみましょう(写真D2参照)。

この姿勢をタックルを切る場面に生かせば自然と抗う力が生まれます(写真D3~4/5参照)。


こうした正しい姿勢から生まれる力をシャドーなどで武道の動きに組み込んでいきました(写真D6は正座を寝技に生かした一例)。

慣れてくると、正しい姿勢をとり続けていると気分が良くなってきます。逆に姿勢が良くないと何だか気持ち悪いな…と感じられるようになってきます。

――呼吸法もかなり時聞を割いていると聞いたのですが、全体性との関係性を教えて下さい。

全体性は正しい姿勢に腹圧(体の内側にかかる圧力)をかけることで完成します。
腹圧は、総合格闘技の激しい動きだけでなく、座る、立つ、歩く、走る、跳ぶ…といった日常の動きにも影響を与える重要な要素だからです。
だから呼吸に時間を割き、私は腹圧を高めています。

私の腹圧のイメージは、腹の内側から外側に押すイメージです(写真E1~2参照)。

実際に壁を押して腹圧の力を体験してみて下さい。
背中が丸まっている状態だと、腹圧が使えず、強く押せません(写真F1参照)。

しかし、骨盤を立て、腹圧をかけると、全体性が生まれれば壁を強く押すことができます(写真F2参照)。

慣れてくれば、腹圧が体中に広がり、繋がりが生まれる感覚もわかってきます。
張りも生まれ、打撃が弓を引いているような状態から放てるようになります。

――腹圧を高めるには腹式呼吸が有効だとか…。

腹式呼吸の簡単な方法を教えます。
まず鼻からゆっくり息を吸い込み、丹田(おへその下)に空気を貯めていくイメージでおなかをふくらませます。
次に、口からゆっくり息を吐き出す。息を吐くときに腹筋の力で横隔膜を上げ、腹圧を高めるのです。自律神経のバランスを整え、心身が健やかになる効果もあります。

「丹田を中心とした全体性」を様々な姿勢で維持できれば永続的な武力は向上します。

――姿勢と腹圧、この2つが全体性の鍵なのですね。

体の構造上、腹圧が弱まると、体の中心である「脊柱」と「体幹」が支えられず、姿勢は安定しません。
また脊柱には脳からの指令を体の各部に伝える中枢神経の束が通っています。 体が歪むと瞬時の判断が求められる場面で、体の各部と中枢神経の連携が乱れ、思ったとおりに体が動かず、後れを取ることとなります。

さらに体が歪んだ悪い姿勢が癖になると、無駄な負荷が常に体にかかっているので、限られたエネルギーを無駄に消耗し、怪我もしやすくなります。

昔の私はそれが分からず、外側の筋肉を鍛えたり疲れる体の使い方ばかり練習していました。

前列中央が斎藤天。ディヤーナ国際学園で引きこもりや家庭内暴力、発達障がいなどの生徒のフリースクール指導と寮に一緒に暮らしながら、空き時間を有効に使い、自主練をしている。

全体性を保ったまま動く

――試合では刻々と姿勢は変化します。全体性を維持することは難しいのではないでしょうか?

全体性はわずかな動きでも崩れます。
当然、姿勢が良くないと腹圧も使えなくなります。
そこで私はストレッチやウォーキング、シャドーなどすべての稽古の中で姿勢を保ち、腹圧(強弱有)をかけ続けています。

打撃で全体性を生かすには、その場突きが有効です。崩れていないから、相手の変化に合わせて一番通した技を選択する感じです(写真G1~2参照)。だからこそ、空手にはその場基本が存在するのです。

また道場のみの稽古にあらず。全ての日常の場面でも姿勢と腹圧を意識すれば、全体性を保ち続ける練習となります。続けているうちに能動筋と受動筋のバランスの理解が深まっていきます。
例えば、正座の姿勢からは構えの全体性、道場の掃除からは軸の感覚と全身の連動も学べました。

その他にも重力拮抗筋など重視の鍛錬法、礼法や呼吸法や準備運動としてのストレッチ、歩法の中で武道的基礎体力を養ってからは、道場での稽古も 減り、その内容・時間も必要最小限(左記は稽古リスト)まで減らしても大丈夫になりました。

1人稽古内容/約45分

  • 道場掃除
  • 呼吸法/約5分(マントラ1分・火の呼吸1分・リラックス呼吸1分・平常呼吸1分・シャパアーサナ1分)
  • 縄跳び 3分1R/約3分
  • 短縮ストレッチ/5分
  • シャドー 3分×3R/9分
  • ウォーキング/10分程度
  • 整理ストレッチ/5分
  • 前出の呼吸法/約5分

※補強、寝技、サンドバッグはたまに追加。対人練習は試合1ヶ月前に週1回程度。目慣らしスパーでの間合いの確認や感覚(試合感、当てる感覚)の確認を重視する。

フィリピン道場で稽古後に心理学座学をする齋藤天。仕事が忙しく、稽古の時聞はほとんどない。

――週1回45分程度の練習で優勝できるとは信じがたいですね…。

全体性が高まるということは、能動筋と受動筋のバランスが良くなり、呼吸と動きが合い、無駄な力みや感情のブレもなくなり、結果的に怪我をすることがなくなるということです。

武道とスポーツの違いは、身体認知を掘り下げることが強さに直結することです。

現在40歳ですが、加齢が進んでも衰えにくい重力拮抗筋を使えば、自分史上最強の状態も可能だと思います。2019年度、ついに全日本大会3階級制覇(マスターズ部門)をすることができたのがその証拠ではないでしょうか。

そして、2020年の世界大会に向けて、世界から集まるフィジカルの化け物を日本の身体文化で迎え撃つのが私の目標であり、すでに万全の準備がすでにできています。
こうして得た心技体の向上は同時に人間関係も広がりを見せており、稽古や試合と日常が密接に関連していることを改めて実感しました。

齋藤天を支える皆さん。

――最後に読者へのメッセージをお願いします。

一般的に加齢と共に筋力や武力そのバランスが低下して弱くなり、怪我や故障も増えると考えられていますが、武道エッセンス(重力拮抗筋と呼吸法 など)で、怪我や故障も無くまだまだ強くなれます。

また、静的な構えや正座などの「様式美」と、動的な蹴りや突き、組技や寝技の「機能美」を練り合わせた稽古をする事で、実戦性を兼ね備えた、「実 戦美」が生まれます。年齢を重ねても芸事として、美しく実戦的な「武道の技」を追求する楽しみにもつながるのではないでしょうか。

さらに武道エッセンスを、子供や若年層が学び、能動筋重視などのハードトレーニング法(部位ウエイト、マラソン、サンドパック、ガチスパーなど)と組み合わせることでより一層の実力を伸ばせます。

この記事を読んで、学生でも社会人でも定年後の方にも「武道をぜひ学んでみたい!」と思って頂けると嬉しいです。

齋藤天の個人レッスン受付中!

歳を重ねても強くなりたい人は、お問い合わせよりご応募下さい!

場所
禅道会高森道場(長野県下伊那郡高森町山吹5948-1)
時間
8:00 ~ 9:30 / 10:00 ~ 11:30
費用
入会金13000円 月会費5500円(合同の場合) 個人指導は3300円(一回)

※出張指導は要相談。